2022年4月から高校の家庭科で、株式、債券、投資信託などの金融商品や資産形成などについての授業が始まる。
金融関係やFP業界では密かに盛り上がっているが、世間ではどうだろうか?
うちには高校生の娘がいるが、家庭で数学や英語の話題が出てきても、金融教育を学校で行った話はほとんど聞かない。
高校側も苦労しているようで、ある英語教育やビジネス教育に力を入れている高校でさえ、父兄から「御校では金融教育を行わないのか?」との問い合わせがあり、どうしようか?と迷っていたと相談を受けた。
いろいろな記事や巷の話を聞いていると「中学生や高校生の間に金融教育は絶対に必要!」という総論は賛成だけど、では実際に何を教えるのか?、どのように教えるのか?というような各論には反対意見が多く聞こえる。そう言った意味ではまだまだ日本の金融教育は世界から遅れを取っていると見える。
(1)高校の家庭科で資産形成を教えるということ
DIAMOND onlineの記事で楽天証券の山崎元氏は、高校の家庭科で始まる金融教育に「2つの不安」があると語っている。
DIAMOND online 「高校で始まる金融教育、「2つの不安」とプロが本当に教えたい10の知識」
不安の1つ目は、資産形成を「家庭科」の家計管理の話に押し込めるのが適当なのか?ということ。
山崎氏は、金融的な意識決定に必要なことは2つあり、1つ目の必要な要素は「正確に損得の判断をする」ことであり、その判断の基礎は「数学にある」としている。数学の応用問題として大学入試に損得計算の問題が出れば、将来大人になって問題にでたような「損な金融商品」を選ぶ大人は激減するだろうとのこと。
必要な要素の2つ目は、「金融ビジネスの仕組みを知る」ことであり、これは政治経済のような社会科系の中で教えることがしっくりくるとしている。
不安の2つ目は、高校の家庭科教師に資産形成の授業ができるのか?ということ。
これは、1つ目の不安に直結することであるが、今まで家庭科を専門として学んできた先生が、「損得を正確に計算する」、「金融ビジネスの仕組みを明確に説明する」ことができるかというと疑問が残るとの見解である。
この2つは前々からよく言われていることであるが、まさにその通りであると私も思う。
(2)世界の金融教育はどうなっているのか?
では、世界の金融教育がどうなっているのか?を見てみたい。
平成26年に日本証券業協会が発表した研究発表を紹介したい。
「海外における金融経済教育の調査・研究」報告書 研究代表者 栗原 久(東洋大学文学部 教授) 日本証券業協会
1)イギリス
イギリスでは数学の授業で金融リテラシーが取り上げられている。「financial mathematics」と称され、「金融における金利」「単位価格」などの知識を教えているようだ。
これは、上記で記載した山崎氏と同じ考えで、数学の比、割合、変化率などの応用問題として扱われている。
2)アメリカ
アメリカで特徴的になのは、ゲームを使った教材を使っている点である。児童、生徒が興味を引くような教材を使い、シミュレーションゲームを楽しんだ後に、教師が準備して授業として取り組む事で教育効果が上がるように設計されている。
<教材の事例>
・VISA Financial Football(http://www.practicalmoneyskills.com/financialfootball)
※やってみようと思ったが、私は英語が出来ないので断念した( ;∀;)
その他にも、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツの金融教育の方針が記されている。
興味のある方はぜひ一読してみるのも良いと思う。
(3)必要な金融教育とは何か?
ここで、またDIAMOND onlineの記事に戻って考えてみる。本当に日本で必要な金融教育とは何なのか?
山崎氏は下記の10個と語っている。
1)お金の意味
2)貯蓄の必要性
3)税金と社会保険料
4)複利の計算
5)割引現在価値の考え方
6)投資と投機の違い
7)リスクの見積もり方
8)分散投資の効果と重要性
9)金融商品の手数料コストの重要性
10)金融で他人を頼ることの危険
私もファイナンシャルプランナーの端くれであり、その立場から考えると上記の10個の項目はどれも重要だと思う。
ただ、ここで1つ疑問が残る。
そもそも授業数の少ない家庭科の時間でこれらを全て教えることができるのか?
しかも受験に出ない家庭科で、今まで習ったこともない「お金の小難しいこと」を生徒は真剣に学ぶだろうか?
私が高校生だったら、まず真剣には取り組まない。
何度か「お金の専門家」という授業慣れしてない方々が高校の授業で「お金の話」をしているところを見たことがあるが、クソつならないお金の話を永遠と聞かされている「つまらなそうな生徒の顔」を見るのがいたたまれなくなった記憶しかない。
そこで最近よく思うのは、重要なのは教え方であり、生徒の興味をつかむことにあると思う。
日本で数学や社会の試験科目に「金融問題を入れろ」と言っても無理だと思う。
入れた分、何かをはじき出さなければならず、その何かが絶対に決まらないからだ。
(イギリス型の授業は日本では難しい)
それであれば、生徒の興味を引き、自分ごとに落とし込ませる方法を実行するしかないと思う。
(アメリカ型の授業であれば日本でも可能である)
カリキュラムの時間が取れない中で、生徒が興味を引くゲームを用いて体験させ、そこに知識を注入する。
その後、自分で調べるようなフォローが出来れば、学習効果は飛躍的に高まると思っている。
そんな事を思い描きながら、「ゲームを使ったお金の授業」の展開を進めている今日この頃でした。
合同会社FPal 代表 坂田卓也